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APDA APDA理事長x IPPF新事務局長対談:地政学リスク時代のグローバルヘルス再構築

2026.4.1 オンライン

国際人口問題議員懇談会(JPFP)の50年以上にわたるパートナー機関である国際家族計画連盟(IPPF)では、4月にマリア・アントニエタ・アルカルデ・カストロ氏が新たに事務局長に就任しました。世界の地政学的緊張の高まりにより開発援助と保健財政が揺らぐ中、持続可能で強靱なグローバルヘルスシステムの早急な構築が求められています。こうした状況を踏まえ、保健財政の「黄金時代」の終焉、セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(SRHR)をめぐる課題、そしてユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)と国際連携の役割について、同氏は、JPFP事務局であるアジア人口・開発協会(APDA)理事長の武見敬三元厚生労働大臣とオンラインで対談し、議論を交わしました。(モデレーター:福田友子IPPF東・東南アジア・大洋州地域事務局長)(モデレーター:福田友子IPPF東・東南アジア・大洋州地域事務局長)

武見理事長:まずは、このたびのご就任、誠におめでとうございます。

アルカルデ・カストロIPPF事務局長:High Level Task Force for ICPDメンバーとしてご一緒して以来、再びご一緒できることを大変嬉しく思います。

モデレーター:まず武見先生に伺います。現在の世界情勢と、そのグローバルヘルスに与える影響をどのようにお考えですか?

武見理事長: ミレニアム開発目標(MDGs)時代には、8つの目標のうち3つが保健関連であったため、保健分野向けの資金が大きく拡大しました。しかしSDGsでは169の目標に資金が分散し、貧困、気候変動、環境など多様な分野との競合が生じ、保健財政の「黄金時代」は終わりを告げたと言えます。さらに、ロシア・ウクライナ戦争やガザ情勢、米国の多国間主義からの転換といった地政学的緊張を背景に、先進国からの保健資金は大幅に減少しています。加えて、イラン・米国・イスラエルをめぐる不安定化は不確実性を一層高め、グローバルヘルス・ガバナンスそのものを揺るがしています。こうしたなか、低・中所得国における国内資源動員を強化するとともに、国際的な保健ガバナンスの強化が不可欠です。日本は東京の「UHCナレッジハブ」を通じて、各国の保健分野における財源拡大を支援する重要な役割を担っています。地政学的圧力への対応と、各国の自立性および強靱性の強化という、二つの戦略が求められています。

モデレーター: アルカルデ事務局長、こうした状況はIPPFという国際連盟にどのような影響を与えていますか。

アルカルデ・カストロIPPF事務局長:現在の環境は、SRHRにとって極めて厳しい状況です。IPPFはこれまでも米国の政策変化に備えてきましたが、今回は状況が異なります。最近米国が推進する二国間協定には、各国の主権やSRHサービスの提供能力を制限する条項が含まれており、これはSRHRのみならず、開発援助の枠組み全体に対する深刻な脅威となっています。昨年、IPPFは81の加盟協会を対象に調査を実施しましたが、多くが2025年から2029年に予定されていた資金の大幅削減(約8,700万ドル)に直面していることが明らかになりました。その影響はIPPFの直接資金にとどまらず、避妊具やその他の必須物資の供給が滞り、必要とする人々に届かなくなる懸念があります。これに対応するため、IPPFは「Fightback Fund」を立ち上げました。すでに、米国の資金削減や政策転換の影響を最も受けている国々(その大半はアフリカ諸国)の36の加盟団体に対し、人命に関わるSRHサービスを維持するため、660万ドル以上を拠出しました。

武見理事長: IPPFの積極的な対応は重要です。同時に、各国自身が財源確保能力を強化する必要があり、国際社会はその自立性とレジリエンスを支えるべきです。

モデレーター: その中でUHCはなぜ重要なのでしょうか。

武見理事長: UHCは、各国が自ら持続可能な保健システムを構築し、国内資源によってそれを支えることを促すからです。国際協力は、ガバナンス強化と透明性、長期的な制度構築を後押しすべきです。

モデレーター: IPPFは国レベルでどのように対応し、またIPPF事務局はどのように組織や運営の変革を進めているのでしょうか。

アルカルデ・カストロIPPF事務局長: IPPFは、各国の加盟協会が、こうした新たな現実に素早く対応し、自国の政府、国会議員、国際機関と効果的に連携できるよう、また自国における独自の資金調達能力の拡充を支援し、依存度の軽減を目指しています。また、政策ブリーフやガイドラインの作成、研修の実施を通じて、アドボカシー能力の向上を図っています。支援対象国は、資金削減への脆弱性、SRHRニーズの大きさ、政策的インパクトなどに基づいて優先順位を付けています。制約の大きい環境においては、エビデンスに基づく取り組みを推進するとともに、現地NGOを支援し、コミュニティへのサービス提供が継続されるよう取り組んでいます。能力強化を中核に据え、ガバナンスの向上や持続可能性の確保、サービスの革新を進めることで、加盟協会が政治的・財政的な不確実性の中でも強靱に活動を続けられるよう取り組んでいます。

モデレーター:日本は新たなグローバルヘルスシステムの構築にどのように貢献できるでしょうか。

武見理事長: 国際機関、政府、市民社会の連携が不可欠です。重複を避け、各主体の強みを生かすべきです。また、各国がガバナンスと資源動員を強化することが持続性のカギとなります。東京に設立された UHCナレッジハブは、その支援に重要な役割を果たし、グローバルヘルス・アーキテクチャーの基盤となります。国レベルでは財務省と厚生労働省が、また国際レベルではファイナンスとヘルスの専門家・機関が緊密に連携しながら事業を推進していくことが重要です。その意味で、このUHCナレッジハブがWHOと世界銀行という、ヘルスとファイナンスを代表する主要機関の協働により運営されることは、持続可能な新たなグローバルヘルス・アーキテクチャーの一端を担うものとして大きな意義があり、今後のさらなる貢献が期待されます。これは、国境を越えたシステム再構築の好事例となるでしょう。

アルカルデ・カストロIPPF事務局長:日本との協力は、SRHRサービスの利用拡大、リプロダクティブ・ライツの擁護、加盟協会の強化、持続可能性の確保、デジタルヘルスや遠隔医療などの革新に取り組む上で、これまで以上に重要度を増しています。

武見理事長:IPPFがSRHRサービス提供のみならず、人権擁護を担う機関であるという認識が広く共有されるよう、引き続き協力し、APDA理事長として、日本とIPPFのパートナーシップのカタリストの役割を果たしていきます。

モデレーター:お二人とも、本日は貴重なお話をありがとうございました。

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